2011年度 夏の研修会 
   楊慧先生による講話


 ご紹介いただきました楊慧です。「本日は晴天なり」今日私
が来るときは何とか大丈夫だったんですが、今、すごく雨降っ
てます。(笑い)楊名時先生はあえて奈良県支部の総会に雨を
当てられるんだと思います。
どんな時でも心は晴れ晴れと「本日は晴天なり」という言葉の
とおり、いつも晴れやかな気持ちでいなさい!ということを私
たちに思い起こしてくれます。

 奈良県支部に伺うのもこうして例年お招きいただいてますの
で、今日初めて私と稽古を一緒にされる方、いらっしゃいます
か?(パラパラ手が上がる)ア!ありがとうございます。初め
まして。

 先日奈良県支部から赤い「奈良県支部10年の歩み」が私の
ところへ送られてきまして、これを見てあー素晴らしい記念
誌ができたなあという風に思いました。
とにかく写真がたくさん入っていて、去年こちらの会に伺った
時も奈良県支部の広報紙がとても充実していて皆さんに見える
ように張り出してあったんですね。それを拝見した時にこうし
て広報ってとっても皆さんにそういうものをお知らせする大変
な役員の方々のお仕事だと思うんですけれど、とても充実した
広報を見せていただき私も分けていただきました。

 そしてこのたびこうして写真が満載された素晴らしい記念誌
ができて、とにかく写真がいっぱいあってそこに適切な文章で
コメントが書いてあって、いろんなことが思い出されて、素敵
な本ができたと思います。

これを作られた役員の方、それから担当の広報の方たちはどん
なに大変だったなと思いましたけれど、またそれを受け取った
支部の皆様がどんなにやはり自分たち支部の歴史をしっかりと
見ることができて喜ばれたことだろうと思いました。

 私たちの会が去年50年でしたけれども、30年の時に初め
て30年誌という立派な本をまとめることになったんですね。
その時に楊名時先生はその本に「国には国の歴史がある。人に
は人の歴史がある。楊名時太極拳には楊名時太極拳の歴史があ
る。」こういう風に書かれています。奈良県支部には奈良県支
部の歴史を積み重ねてこの10年歩んでこられたと思います。
私このことは素晴らしいことだなーという風に思っています。 

 楊名時太極拳はこの50年という歴史が刻んでまいりました
けれど、この50年はどういう50年だったんだろうかと振り
返ってみますと、ただひたすらに楊名時師家が八段錦と太極拳
を皆さんに繰り返し繰り返し、みんなと仲良くして、人と比べ
たり競ったり、競技しなくてもいいから心を合わせて動くんで
すよ!ということを繰り返し繰り返し語りながらこの太極拳を
続けてきました。ですからこの50年というのは考えてみます
と別に目新しいことをしてるわけでもないし、いつも同じ心を
持ちながら稽古を続けてきた50年だったと思います。

 この50年を過ぎてこの頃しみじみと思いますのは、やはり
今はインターネットを開くと難しい文献とか、今まで知りえな
かったような沢山の情報がインターネットを通じて目に見るこ
とができたり、あるいは活字としていろんな知識を得ることが
できます。また、いろいろな場面で様々なことが進歩していま
すから、太極拳が体に与えるデーター的なものとか、ほんとに
医学の面からも手に取るようにわかりやすく、具体的なデータ
であったり、数値として目に見えるように理解できるようにな
りました。これはもう楊名時師家が皆さんにデータとして伝え
られるように医学的な面から進んでいくといいね!と言ってい
た時代を思い出しますと、今は格段のスピードでそういうもの
がどんどん私たちにわかるようになってきたんですね。

 しかし、楊名時師家は太極拳は医学の面でもそういう数値や
データで出ることも非常に大切だけれど、だけどこれは芸術で
もあるんだよ!とそんな風にもおっしゃっていました。数値や
目に見える活字から得るだけではなくて、それぞれが長く稽古
を繰り返すことによって自分の体の中に心の中に積み重ねてく
る個々のそういう素晴らしい目には見えない、文字にはできな
いそういうものが私たちの体に積み重なって、それはそれぞれ
の人のなかのバランスのとれた芸術となって行く。楊先生はそ
んなこともおっしゃっていました。

 私は今こうしていろんなものが手にとるように分かるように
なった時代だからこそ、やはり目に見えない自分たちが心の中
で感じ、受け止めてくる楊名時太極拳ならではのものを繋いで
いくことが大切だという風に私は思っているんですね。楊先生
は、たくさんの言葉を新しい方もきっと本などで楊名時師家に
会ったことがなくてもご存知の方が多いと思うんですけれど、
沢山の言葉を中国の古い格言だったり、伝わってる言葉だった
り、あるいは孔子様の論語の中だったり、いろんなところから
様々な言葉を集めてきて、私たちに大切なことをいくつか教え
てくれていました。

 その中で私が今一番思っていることは、一つは中国の考え方
の基本というのはやはりすべて宇宙(大宇宙)が源になってい
ます。太極も、太極拳も大宇宙へ続く道であるということで、
大宇宙と一体になるというようなところから始まっているんで
すけどね。この「天・地・人」楊先生はよくこの「天の時」
「地の利」「人の和」ということをいろんな書物の中やお話の
なかでおっしゃっていたんですね。私たちは大宇宙とつながる、
わたくし個としての小宇宙、そしてこれは天の時、地の利、人
の和があって初めて調和していって安定した時・場・そういっ
たものを得ることができる。その中でもこれは天あるいは地と
いうのは自然のなせる業ですから、これは自然の摂理に従うし
かない。時も地の利もやはりその時が来るのを待つ。でも人と
の和というのは、人は必ず人とかかわって生きています。みん
な支え会い、支えられ。これは努力しなければいけません、と
いう風に本に書いてあるんですね。「太極の道」人と人はやは
りお互いに少しずつ譲り合い、近寄って支えあっていくんだよ。
だからすべてはその心、人と人の和をもつためにはお互いに譲
り合う。そういう心が大切なんですよ。といつもおっしゃって
いました。

 そしてこの天、地、自然の摂理にはやはり逆らえませんから、
静かに今日も私は「本日は晴天なり」と晴れ晴れとした青空で
言えればよかったけれど、雨が降ってしまって、でもこれは自
然にしたがってそんな時も穏やかな晴れやかな気持ちを忘れな
いでいようと思います。

 「天・地・人」それから「楊名時太極拳5則」の中に「心・
息・動」という言葉があります。楊先生はいつもすべては心
から始まり、心が大切なんだとおっしゃいました。息、呼
吸するということは生きることですという風に書いてありま
す。そのために私たちは体のためになる良い呼吸を、深長呼
深く長くゆっくり行ってください。それから動きは力を入
れないで、緩やかにまろやかな動きを行うことで、手や足の指
先まで良い気が満ちて、自分の元気が生き生きとしてくるんで
すよ。

 この「天・地・人」「心・息・動」そして、やはり絶対忘れ
てはいけないのが、私たちのスローガン。これは「健康・友好
・和平」。私たちが歩んでいく道というのは、健康・友好・和
平へつながる道を歩んでいく。楊名時先生はそこへ行きつくた
めに、まず自分が健康でいなさいよ!自分が健康でないと、友
達を思いやる気持ちは生まれない。自分のことで一杯いっぱい
になる。まず自分の健康、そして自分が健康で生き生きしてく
ると、一緒に稽古する仲間の健康も根が生えるし、仲良くなれ
てみんなが仲良くなれば「和平」(フーピン)みんな仲良く平
和な世の中になるんですよ。これは楊名時太極拳ならではの教
えだと思います。

 楊名時太極拳というのは中国の太極拳そのままを行う動きで
はなくて、楊名時という人が独特の考え方とか、目指す理想と
か、あと解釈の仕方とか、そういうものが隅々に散りばめられ
た特別な太極拳だと私は思っています。楊名時太極拳50年が
過ぎ、奈良県支部は10年、それぞれがそれぞれの歴史を刻み
ながらしっかりと私たちの目指していく道を歩んでいく。絶え
間なく理想に向かって進んでいくということが大切だなあと、
しみじみと思っています。

 奈良県支部に来るといつも思うことが一つあるんです。そし
て今回この冊子を見たときも、私がいつも思うことがこの冊子
の中にちゃんとあるんです。それを見て「あー、やっぱりいい
な!」と思ったの。それは何かというと今日もここにあるんで
す。「健康・友好・和平」そして楊名時先生がいつも言ってい
た「同心協力」この垂れ幕が2002年の時から常にここにず
っと掛けられていて、私は奈良県支部は今、会員数も増えてい
ます。でもきちんと私たちが進んでいく道を幕に表してくださ
っている。それは素晴らしい歴史になっているなあと感じてい
ます。

 これからもこの道を一緒に私も進んでいきますのでどうぞよ
ろしくお願いします。お話はこれで、あとは一緒に体を動かし
て稽古をしたいと思います。

 ありがとうございました。




講話後の練習風景